今では当たり前のデジタル放送の基礎技術のOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)技術を最初に検討し始めたのがDAB、当初はEureka-147と呼ばれ、欧州地区の国家プロジェクトでした。
同時にJESSI(Joint European Submicron Silicon Initiative) AE-89プログラムで専用IC開発も行われた。
プロジェクトの名前や内容から理解できるように排他的な感じのプロジェクトで欧州以外のメーカーでは『DAB規格』の詳細がわからないため、開発ができない最先端プロジェクトでした。
開発の目途が付いて、量産化の目前に迫ってきた段階で欧州以外のメーカー(最初に参加できたのは1993年の日本の『パイオニア』)が参加できるようになりました。
DAB開発で一番のネックはやはりOFDM復調で使用するFFTの演算スピードでした。開発当初はFFTのスピードが現実的でなく演算量を減らすために、必要なチャンネルだけ取り出すpartial FFTと呼ばれるアルゴリズムでFFT演算量を数分の一に落としたシステムも考えていました。
幸運なことにシステム全体の規格が決まるまでに時間がかかり、その間にFFTの演算処理スピードが飛躍的に向上して、ハードウェアでもDSPでも問題なくFFT処理ができるようになって今の形(フルデコード)になりました。
もう一つDABがSFN(Single Frequency Network)と呼ばれる技術を使い、同一周波数で隣り合わせた地域に同じ内容を放送するという技術を初めて採用しました。
普通、従来のアナログ放送では同一内容でも地理的に重なる場合は異なる周波数(一般にMFNと呼ばれる)を使いますが、DABでは同じ周波数で問題が起きません。つまり一度周波数を合わせると受信エリア外までは何もしなくてもよく、周波数効率が良いという画期的なシステムになっています。
JESSIプロジェクトではRF部のアナログICはTEMIC社、信号処理部のデジタルICはPhilips(現NXP)社が開発していました。
世界的にみると日本、アメリカ、中国以外はDABベースのシステムがデジタルラジオの中心になっています。ある意味、デジタルラジオの世界標準になりました。
DABの優れているところはDRMやRDSなどと親和性が良く、今後も発展しやすいようです。しかし、世の中、技術の進歩が速く、今後はデジタルラジオとインターネットラジオの主役争いの様相になってきています。
放送開始は、はっきり何時からとは言えないのですが1995年頃からだと思います。しかし、残念なことにスタートして10年以上は普及的には失敗していました。理由は
①専用受信機もほとんどなく、放送内容もFMとサイマル放送がほとんどだったため、ユーザーはわざわざ、DAB受信機を買うメリットがなかった。
②DABはFM放送をデジタル化するのが目的でしたが、地上波デジタルTV放送と違ってFM放送のSwitchover(停波)の計画がはっきりしていなかった。
③放送局からすると受信機が少ないため、FMとDAB両方を同時に放送すると維持費がかかるため、積極的にはDABを推進しなかった。
④ラジオ市場で大きな影響力がある車載搭載では新規アンテナが必要になった(現在ではL-bandが無くなりFMと共用できるようになってきています)
そのため、各国で細々と部分的にスタートしたDAB放送も段々と休止したりして、なかなか普及しなかった。また、技術的に時間が経つと技術進歩が追い付かなくなり、音声圧縮率などが時代遅れになってきてしまい、余計、見放されてきました。
しかし、新しい技術を導入して「DAB」から「DAB+」として復活をとげ、現在のように普及してきました。そのため、最初にDABがかなり普及したUKだけはいまだに「DAB」規格で放送されていますが、それ以外の国では「DAB+」規格で放送がされています。
違いは音声圧縮がMPEG1系からMPEG4系に変わっただけなので音声デコーダをソフト的に変更するだけで済み、DAB+受信機は上位互換としてDABも受信できるようになっています。